冬の到来とともに日本海の荒波を南下してくるブリは、いち早く佐渡沖で水揚げされます。うまみのある脂とクセのない味わいは天然ものならではです。
佐渡寒ブリが美味しいワケ
新潟県内でも寒ブリの真価を知る人は少ないが、築地や金沢の市場評価は高い。佐渡産が、どうして美味しいのか。新潟県水産海洋研究所(当時)の池田怜さんに聞いてみた。
「それはブリの生活史に関係しています。ブリは回遊性の魚で、九州近海でふ化した稚魚が北上し各地に来遊します。それから2歳まで各地で小規模な回遊を続け、3歳になったばかりの春から夏に日本海北部海域にいたブリはさらに北海道周辺の海域に北上します。海の資源が豊富な北の海で栄養を蓄え、冬になると産卵のために南下してきます。佐渡の沿岸は、南下する魚群の通り道の近くに位置しているため、定置網などにたくさんのブリが入網してきます。11月から3月までに来遊することから『寒ブリ』といい、とくに1月いっぱいまで獲れる体重7キロ以上の大ブリは脂肪分が多く含まれ、 美味しいことから高級品として珍重されています」。富山湾で獲れるブリと何か違うのか。「ブリそのものはおなじですが、ただ富山以西にはブリの食文化が根強く、その伝統を背景に市場が成立しているので、天然物のブリが非常に大切にされています」。実は新潟の隠れた名産品、それが佐渡の寒ブリなのだ。
全国のグルメを唸らせる佐渡天然寒ブリの実力を体感してみる。まず手始めに佐渡のご当地グルメとして知られる「佐渡天然ブリカツ丼」。2センチの厚手の切り身を衣に包んでカリッと揚げ、それを特製あごだし醤油ダレにくぐらせている。口に含んだ瞬間、ジューシーな脂が滴り、甘いタレが愉快なインパクト。ブリなのか、肉なのか味覚の記憶が判然としないまま、箸はどんどん進む。通年で観光客に天然ブリを味わってもらおうと島内の飲食業・農協・漁協・市がスクラムを組んで2011(平成23)年に考案した新メニューである。当初、刺身で食べるものを揚げるのはもったいないという意見もあったが、いまでは佐渡を代表する人気グルメになっている。
※記事中の内容は取材当時のもの(広報誌ふうど2015年冬号 第27号掲載)